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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)3537号 判決 1979年5月28日

原告

豊商事株式会社

右代表者

多々良義成

右訴訟代理人

吉井文夫

被告

岡部正宜

右訴訟代理人

垰野兪

主文

1  被告は原告に対し、金一一六万八、四〇〇円およびこれに対する昭和五二年四月二八日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一<省略>

二抗弁について

1 商品取引所法第九七条一項は、「商品取引員は、受託契約準則の定めるところにより、商品市場における売買取引の受託について、委託者から…担保として委託証拠金を徴しなければならない。」旨規定し、<証拠>によると、東京穀物商品取引所の定める受託契約準則第七、八条において、商品取引員は、売買取引の委託について、委託者から担保として、委託本証拠金、委託追証拠金等を徴収しなければならず、委託追証拠金の額は、委託を受けた売買取引がその後の相場の変動により損計算となり、かつ、その損計算額が、当該売買取引による委託本証拠金の半額相当額をこえることとなつた場合における当該損計算額の範囲内とし、その徴収はその場合の生じた日の翌営業日正午までにするものとする旨規定されていることが明らかであるが、同法および同準則上、委託(追)証拠金預託の必要の発生を委託者に通知すべき旨を定めた規定は存しないのみならず、委託証拠金は主として商品取引員が委託者に対し委託契約より生ずる債権の担保のために徴収するものであるから、商品取引員が委託証拠金をその都度徴することなく商品市場において売買取引しても、右商品取引員と委託者との間の契約およびこれに基づく法律関係の効力に影響を及ぼすものではなく、したがつて、商品取引員が委託(追)証拠金の必要の発生を委託者に通知する旨の約定をなす等特段の事情がない限り、商品取引員が委託者に対し、右通知義務を負担するものと解することはできない。もつとも、右各規定の趣旨からすると、委託証拠金が過当投機抑制的機能をも副次的に持つていることを否定することはできないが、損益の帰すべき委託者は自らその損益状況を十分に把握して商品取引員に注文をなし、右商品取引員がこれに従つて商品市場において売買取引をなすのが原則とみるべきものであり、委託証拠金の持つ前記過当投機抑制的機能を特に重視して、委託証拠金の徴収なしになした売買取引に関する法律関係の効力を否定したり、前記通知義務を肯定したりすることは、委託者をして、損計算となつたとき、その債務を免れしめる結果を招来し、かえつて過当投機を助長させることにもなるから、当を得ないものというべきである。

2  そこで、これを本件についてみるのに、原・被告間の本件委託契約にあたり、商品取引員たる原告が委託者たる被告に対し、委託追証拠金の必要の発生を通知すべき旨の約定をなしたことを認めるに足りる証拠はないのみならず、<証拠>を加えると、被告は昭和四二、三年ごろからいくつかの商品取引業者と商品先物取引をなしてきた経験を有するところ、原告とは昭和四七年七月ごろから右取引を始め、一時中断後の本件取引については、被告自らが原告方店頭で売買の注文をなしてきたものであること、原告は被告に対し、毎日の取引内容を示す売買報告書ならびに月末に委託証拠金と建玉の各現在高および値洗損益を示す建玉残高照合調書を送付し、被告はこれを受領してきたこと、原・被告間の取引において、原告は被告が委託追証拠金納付の必要があるのに、これをしないで増建玉を認める扱いをすることもある取引状況であつたことが認められ、これらに徴すると、本件において、前記特段の事情があるものということはできず、被告主張にかかる通知義務を肯認することはできない。

3  よつて、抗弁は採用しない。<以下、省略>

(伊藤博)

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